粉体塗装は耐久性と防錆性が高いというメリットがありますが、少量生産短納期が苦手というデメリットも持ち合わせています。このページでは粉体塗装のメリットとデメリットについて紹介します。
粉体塗装のメリットは以下のとおりです。
1つ目は「環境や人体にやさしい塗装方法である」ことです。
有機溶剤は揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds;VOC)であり、光化学スモッグの原因になることから、大気汚染や水質汚染が懸念されます。そのため、有機溶剤を含む溶剤塗装は環境面において悪影響を与える塗装法といえるでしょう。また、VOCはシックハウス症候群などの中毒症状の原因となり、人体にも影響を与えます。
しかし、粉体塗装の塗料には顔料や樹脂を溶かすための有機溶剤が一切使用されていないため、塗装を施した際にVOC発生が限りなくゼロに近い状態にすることが可能です。環境や人体にやさしい塗装方法といえるので、もし工業用製品塗装に低公害型の塗装方法が責務になった場合、粉体塗装への切り替えは欠かすことができなくなるといえるでしょう。
2つ目は「塗膜の耐久力が高い」ことです。粉体塗装の塗膜の耐久力が高い理由は3つです。
溶剤塗装は有機溶剤を用いて顔料や樹脂などを溶かして塗料にします。それに対して粉体塗装は粉体に砕いた顔料や樹脂がそのまま塗膜になるため、溶剤塗料に比べて塗膜が厚く構成されます。たとえば、溶剤塗装により形成される塗膜の厚さは約20ミクロンですが、粉体塗装の場合は30~150ミクロン程度です。
また、粉体塗装では粉体を噴き付けた後、高温での焼付により樹脂が融解し化学反応が発生します。これにより、高分子ポリマーがネットワーク上の組織を形成することで、塗膜強度自体も非常に高くなります。
さらに、塗膜には柔軟性も形成されるため、屋外のような環境下に置かれたとしても被塗物が伸縮を起こして追従できるので、ひび割れや剥がれを防ぐことができ、塗装の寿命を伸ばすことが可能です。
塗膜の厚さと強度、柔軟性から、粉体塗装の塗膜は耐久力が高いといえるでしょう。
3つ目は「防錆性が高い」ことです。
粉体塗装は元々錆止め塗料として普及した歴史を持っています。なぜなら、粉体塗装された被塗物は空気に触れにくいからです。
粉体塗装が形成する塗膜はぶ厚く柔軟性も高いため、温度変化の大きい過酷な環境でも被塗物の伸縮に追従して対応が可能です。そのため、塗膜がひび割れたり剥がれたりする可能性が低く、空気に触れにくいといえるでしょう。
また、粉体塗装は塗装ムラが生じにくいため、塗布面に生じる小さい穴やエッジ部の塗装が薄い箇所の発生を抑えることができます。そのため、粉体塗装は空気に触れにくい状態で塗装仕上げが可能です。
高い耐久性と塗装ムラが生じにくいことから、粉体塗装は高い防錆性があるといえるでしょう。
4つ目は「コストパフォーマンスが高い」ことです。
粉体塗装で形成された塗膜は耐久性と防錆性が高いため、再塗装が必要になることはほとんどありません。そのため、溶剤塗装とくらべて、ランニングコストを削減することが可能です。
また、粉体塗装の塗料には有機溶剤が用いられていないため、塗料成分が揮発して変質することがありません。そのため、被塗物に付着しなかった塗料を回収して再利用することができ、塗料のロスを抑えることが可能です。
さらに、粉体塗装には有機溶剤が用いられていないためPRTR法届出対象物質や危険物に該当せず、焼付乾燥も溶剤塗料と比較して高温かつ短時間で行うことができます。そのために塗装からもライン設備の小型化が可能です。
粉体塗装のデメリットは以下のとおりです。
1つ目は「薄い膜厚は対応できない」ことです。
粉体塗装は塗料の構成から薄い厚みの塗膜を形成することができません。厚みを薄くする場合でも30ミクロン程度までになっています。そのため、それより薄い塗膜が必要な場合は溶剤塗装のような液状塗料の使用を検討しましょう。
2つ目は「少量多品種、および短納期対応が難しい」ことです。
粉体塗装は静電気を利用して被塗物に粉体を付着させ、高温で焼付乾燥を行い、膜厚を形成させます。粉体の密着性を向上させるために、粉体の噴きつけ前には油脂分を取り除く脱脂工程や錆を落とす酸洗工程など、入念な前処理が行われます。そのため、粉体塗装は細やかな調色対応が求められているので、少量多品種の塗装や短納期対応が苦手とされています。
3つ目は「専用設備が必要になる」ことです。
溶剤系塗料の場合スプレーガンがあれば塗装できますが、粉体塗装は流動浸漬槽、静電塗装設備、加熱炉などの粉体塗装専用の設備が必要です。また、粉体塗装用の設備にセッティングできるサイズ面や、加熱するため耐熱性面で、被塗物が限定されてしまいます。